後悔より・・・愛を捧ぐ。

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後悔より・・・愛を捧ぐ。 (目安50分)  作者 猫One~
≪登場人物≫
和哉
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彩香
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【台本目次】
【プロローグ】
【シーン1】
【シーン2 彩香】
【シーン3 和哉】
【シーン4】
【シーン5】
【シーン6】
【シーン7】
【シーン8】
【シーン9】
【彩香からの手紙】
【エンディング】
 
【プロローグ】
和哉
(M)
彩香と生活を共にするようになって、もうすぐ七年の歳月が過ぎようとしている。
出会ったのは、高校の時だった。
俺が三年の時に、彩香が入学してきて、部活勧誘で声を掛けたのがきっかけ。
真っ直ぐ心を射抜くような目をしていて、すごく印象的だった。
彩香
(M)
和哉さんと結婚したのは、もう七年前になるんだなぁって感慨深くなる。
改めてアルバムを捲りながら思わず当時の自分達の想い出を振り返り、懐かしむ時間。
部活勧誘の時、和哉さんが上から私を覗き込んで。
「バレー部のマネージャーやらない?」って声を掛けてきた。
その声に誘われて見上げた時、彼が浮かべた笑顔がとても可愛くて…。
思わず頷いてしまっていた…それが彼との出会い。
和哉
彩香・・・俺と結婚しないか?
彩香
えっ⁈待って…あの…私でいいの?
和哉
…お前がいいんだ、彩香‼
彩香
和哉さん…嬉しい…!これからもどうぞ、よろしくお願いします!
和哉
(M)
涙ぐみ喜ぶ彩香を見ながら、彼女となら明るくて優しい家庭が築けるそう思った。
彩香
(M)
和哉さんの優しさと、頑張る彼の背中をずっと見守りつつ、少しでも彼の為にと色んな事を頑張った。
和哉
(M)
就職して間もない頃、仕事を覚える事に手一杯だった俺に。
彩香はこまめに手料理をアパートのドアノブへ掛けて届けてくれた。
彩香
(M)
休みも返上して必死で仕事に取り組んでる和哉さんに、私が出来る事を模索しながら、彼を支えて行きたいと心から願った。
和哉
(M)
彩香がいたから頑張れたんだ。
彩香
(M)
和哉さんがいたから努力なんて苦ではなかった。
和哉
(M)
でも積み重ねていく歳月の中で、こぼれていく砂のように。
彩香
(M)
大切な人に伝える事の重要性を、お互いに見失ってしまった。 
【シーン1】
和哉
ただいま。 
彩香
おかえりなさい!
今日もお仕事お疲れ様♪
和哉
寝ててもよかったのに…毎晩ごめんな?
彩香
全然大丈夫だよ!
仕事が大変なのはわかってるから!
だからせめて和哉さんの体調面とかは、私がサポートしていたいの!
和哉
…ありがとう、彩香!
彩香
ううん、こちらこそいつもありがとう♪
和哉
(M)
時計を見れば午前零時を軽く回っている。
そんな中、彩香は笑顔で俺を出迎え、食卓にはいつも温かな晩飯を並べてくれる。
彩香
(M)
最近一緒に過ごせる時間が減ってきている。
和哉さんの表情から笑顔が減った気がして、不安になってしまう。
それでも必ず帰宅した後、遅くなっても作ったご飯を食べてくれる和哉さんが愛おしい。
彩香
ねぇ和哉さん…私そろそろ…子供欲しいな…?
和哉
…そうだね。
わかってるんだけどもう少しだけ、子供は待ってくれないか?
彩香
もちろん授かりものなのだから、自然の流れにで大丈夫よ?
ただ子供がいればもっと楽しい時間が増えるかなって思ってるだけで…
和哉
ごめん…彩香には寂しい思いをさせていると思ってる。
でも今は本当に仕事大変過ぎて、子供にまで俺自身が手が回らないと思うんだ。
君一人で子供の世話をさせる訳にもいかないし…。
彩香
うん…わかってる!
…そうだね、和哉さんの仕事が落ち着くのを私も応援してるね!
和哉
ありがとう、彩香。
聞き分けがよくてホントに助かるよ。
ほらもう遅いし、先に寝てていいよ?
俺は明日の資料の準備して寝るから。
彩香
うん…わかった。
ーーーじゃあ先に寝るね?
あまり無理しちゃダメよ、和哉さん。
和哉
あぁ、ありがとう、おやすみ彩香。
 
彩香
(M)
ずっと和哉さんの顔を見ていた。
でも一度も彼と視線が合う事は無かった。
些細な事なのかも知れない…。
でも寂しくて…ベッドの中で声を殺して泣いた。
和哉
(M)
いつからだろう…。
彩香の気持ちに申し訳なさを感じ始めたのは…。
毎日大切に食事を作ってくれて、気配りも申し分ない。
自分にとって出来過ぎの嫁と思っているのは本心だ。
でもそんな彩香に対して、いつからか息苦しさを感じる様になった。
感情は表に出さず、俺を優先してくれる。
我儘なのかも知れないが、彼女の本心が見えなくて不安が襲ってくる。
我慢せずに怒ればいいのに…優しい彩香。
【シーン2 彩香】
彩香
うっ…。
なんだろう…胸がムカムカする…。
疲れがとれてないのかな…。
それに最近よく胸が張って、その後胃が痛くなるんだけど…って、まさか⁈
彩香
(M)
勘違いも…甚だしいとはこの事を云うのかも知れない。
胸を昂らせ期待感に包まれながら、受診した先の先生に告げられたのは。
「検査を急いでしなさい」との言葉と専門の先生がいる病院の紹介状だった。
彩香
えっと…ご飯の支度…しなくちゃね♪
ーーー大丈夫、きっと大したことなんてない!
 
彩香
(M)
頭の中に蔓延る不安。
…胸に広がる恐怖。
失いたくないモノ、大切にしたいモノ・・・。
走馬燈の様にいろんな思いが巡り回る。
色んなものを欲しがったから?
でも…私にとって大切なものはたった一つ。
和哉さんと出会った頃と同じように。
優しくて幸せな時を過ごしていきたい…ただそれだけだったのに。
【シーン3 和哉】
和哉
ーーーはい、わかりました!
必ず結果が残せるように、この仕事を成功させて見せます!
 
和哉
(M)
とある仕事のプロジェクト主任に抜擢された。
二十代で主任に抜擢される事は、この職種では異例の事で。
企画案が高い評価からの抜擢。
この後続いてくる後輩の未来にも、繋がるからこそ、結果を必ず出さなければいけない。
そう思い、意気揚々にプロジェクトに取り掛かった後に、現実を知る。
若い者が年配を纏める事は容易ではない。
若輩がと蔑まされることさえある。
頼んでおいたはずの割り振りも。
無かったことにされ、俺の失態だと責任追及される始末。
ーーー悔しい。
こんな所で負けたくない。
彩香にたくさんの我慢をさせている上での仕事だ。
成功させて彼女にも喜んで欲しい。
そして胸を張って、この仕事を誇りたいんだ。
その代償は…彩香との時間が減り、仕事しか見つめなくなった俺そのものだった。
【シーン4】
和哉
珍しいな…部屋の明かりがついてない。
 
和哉
(M)
時計を見やれば、やはり深夜を超えている。
毎晩午前様に帰宅する家庭では、明かりを灯して出迎えてくれる事はないのかも知れない。
しかし結婚生活の中で無灯を経験した事がなかった俺は、この事で更に不安になった。
 
和哉
…ただいま…彩香ただいま…‼
あれ?
今日は泊りとか何か言ってたかな?
まあいいや、とりあえず先にシャワー浴びよう。
 
和哉
(M)
汗を流し終わり軽く体を拭きあげてリビングへ向かうと、違和感が込みあげた。
なんだろうか…?
いつもと雰囲気が違うような。
気のせいか?
テーブルには晩御飯作って置いてくれてるけど…彩香、調子が悪いのか?
 
和哉
彩香…いる?
彩香
…あ和哉さんおかえりなさい!
ごめんなさい、調子が悪くて…寝ちゃってたみたい…。
和哉
あ、そうだったんだ。
起こして悪かった!
体調大丈夫そう?何か飲み物いる?
彩香
…ううん大丈夫。
和哉
わかった…じゃあゆっくり休んで?おやすみ彩香。
彩香
あ、…和哉さん…
和哉
うん?彩香、今呼んだ?
彩香
…ううん…なんでもない、和哉さん…大好きよ?
和哉
ああ…ありがとう彩香、早く良くなれよ?
 
和哉
(M)
寝室を出て部屋に戻った後、明日の仕事の資料作りをこなしているうちに、引っ掛かっていたはずの違和感の事は、どこかに消え去っていた。
【シーン5】
和哉
ーーーただいま…
和哉
(M)
彩香の出迎えは今では皆無となり、玄関リビングも明かりが灯っている事はない。
二人で会話しようと思ってはいるものの、仕事は大詰めを迎え、休みなど関係なく呼び出される。
【彩香の部屋の扉の前で】
和哉
彩香、ゴメン!
呼び出しだから行ってくる。
彩香
…うん、いってらっしゃい…
和哉
なぁ、言いにくいんだけど、最近家の事少しサボりすぎじゃないかな?
ーーー晩飯も最近。
スーパーの惣菜ばかりだよね?
彩香
…ごめんな…さい。
和哉
あと…寝室の電気ぐらいは付けろよ?
調子悪くなって二か月近く経つけど…良くならないなら、病院変えてみる方が良いかも知れない。
彩香
…そうね、…うん、考えてみるね?
和哉
ごめんちょっとドア開けるよ?
ーーー彩香ちょっと痩せたんじゃないか?
 
和哉
(M)
部屋が暗くてはっきりとは見えない。
でもなんだか彩香のシルエットが細くなった様に感じた。
 
彩香
…最近あまり食べれなかったから、体重落ちちゃったのかも…
ーーーでも大丈夫。
和哉
あ、うん。
彩香…今日は早く帰れると思うから、俺がなんか作るね?
彩香
私の事は気にしないでいいから、和哉さんは何か美味しいものでも食べて帰ってきて?
私もその方が助かるから…。
和哉
えっ、あ、そっか。
…わかった、じゃあそうする。
彩香
じゃあ行ってらっしゃい、気を付けてね?
和哉
ーーーあぁ。
 
和哉
(M)
会話中、一度も彩香は顔を上げる仕草をしなかった。
「どこかで食べてきてくれた方が助かる」
そんな言葉を彼女の口から聞くとも思わなかった。
当たり前だと思う。
二人の関係に亀裂が入っているのなら、それは全て俺の責任だ。
でも俺は夫婦関係を終わらせたいわけじゃない。
この仕事さえ全うすれば、必ず彩香も笑ってくれる。
だからもう少しの辛抱だ…。
彩香
(M)
和哉さんがご飯を作って一緒に食べようって言ってくれたのに、拒絶したみたいになっちゃった…。
和哉さんが食べる姿…見たかったな。
一緒に他愛無い話をして、笑って。
そんな時間をどれだけ過ごしたいと願っているか…
でも今の私は立って歩くだけでも、体の関節が悲鳴を上げる。
体中に散らばった癌細胞が浮腫みとなり、その痛みを薬で凌ぐ事も難しくなっている。
もう手術さえ出来る状態ではないと言われたあの日。
私が願ったことはただ一つだった。
最期の時まで貴方の隣に、居たいの…和哉さん。
【シーン6】
和哉
ただいま彩香、いる?明かり付けるよ?
彩香
ーーーごめんなさい。
ちょっと頭痛がひどくて…出来れば明かりは付けないで?
和哉
そうか…わかった、中入るよ?
彩香
…和哉さん…どうしたの?
改まって、大切な話…かしら…?
和哉
彩香…俺に何か隠してる事、ないか?
彩香
…ない…よ?
和哉
…嘘つくなよ!
だっておかしいだろ⁈
最近は全く寝室から出てこないし!
…いやごめん。声を荒げるつもりはないんだ…
彩香
…和哉さん、心配してくれてるのね…?
嬉しいな…。
和哉
いや俺は…ただその・・・彩香に申し訳なくて…
自分がどう接していいのか、わからなくなってて…
彩香が今のこの状況をどう思っているか、知りたいというか、ちゃんと話がしたくて。
彩香
そうなのね?よかった…。
別れを切り出されるのかって思ってた…。
和哉
そんな訳ない‼
ーーー俺は彩香に愛想尽かされても仕方ないと思っていて…
悪いのは俺なんだ。
仕事の忙しさを理由に向き合う事を避けて、時間だけが過ぎて…。
でも俺が彩香を想う気持ちは、変わってはいないんだ。
だからこのままにしておく事は出来なくて、今日勇気を出して…
彩香
ねえ和哉さん?
私にとってあなたは誰よりも大切な人なの。
生涯共に過ごすと誓ったあの日から、私の気持ちも何一つ変わっていないわ?
今もあなただけを愛しています。
和哉
…彩香、ごめんな?
蔑ろになる様な行動を取って、本当にごめん…。
彩香
謝らないで、和哉さん…
私の方こそ、貴方を不安にさせてしまっている事、分かってたのに…。
私ね?
ずっとあなただけを見つめてきたの。
だからもし、和哉さんの心に違う女性の影が見えれば、きっとすぐに見抜いてしまう自信があるわ?
和哉
ーーーそれは俺が単純だから?
彩香
ふふ、違うわ。
一緒に過ごしてきた7年の時間、仕草、表情。
あなたの癖もたくさん見てきたから、どれだけあなたがこの仕事に自分の全てを捧げているか、私なりに理解しているつもりなの。
あなたは優しいから、仕事で私を蔑ろにしたと悩んでくれていたのもわかってたわ?
…あなたを支えようって…ずっと決めてたのに…
美味しいものをたくさん作って…たわいのない話しをたくさんして…
あなたの隣にずっとこの先も…いたかった…
和哉
…彩香? 
どうして過去形のように話す?
俺達はこれからもずっと夫婦で、一緒に…
彩香
和哉さんごめんなさい…。
あなたは自由に…私に縛られなくていいの…だから…!
和哉
…何を言ってるんだ!
俺は別れるつもりはないよ‼
 
和哉
(M)
立ち上がって彩香との距離を縮めようと踏み出した足先に。
大量の冷ややかな塊が触れ、ずっとどこかで引っ掛かっていた違和感が溢れ出す。
和哉
ねえ彩香…今すぐに電気をつけて⁈
彩香
あ、和哉さん!ーーーだめ‼
和哉
駄目じゃない!
ーーー早くリモコン貸して‼
 
和哉
(M)
眩しく灯った明かりの先に照らし出されたのは。
錠剤用のPTP包装シートが空になって散乱した、異常な光景だった。
どこかでそんな訳ないと、見知らぬ振りをしていたのかも知れない。
彩香も俺に隠そうとした不調の本当の意味を。
ベッドの上で身を隠そうとする彩香の姿が目に飛び込んだ時。
自分の息の根を止めてしまいたいほど、後悔の念が全身を埋め尽くしていった。
どうして…俺は…もっと彩香と早く…向き合わなかったのだろう…。
 
彩香
…こんな姿を…見せて…ごめんなさい…和哉さん…
和哉
彩香…違うだろう…⁈
そうじゃない…どうして⁈
こんなになるまで、本当の事を隠し続けたんだ‼
彩香
黙っていて…ごめんなさい…
あなたに知られる前に、ここから消えるつもりでいたんだけど…
離れ難くて…先伸ばしちゃってた…
和哉
謝るなよ…謝らないでくれ…!
どうして俺を責めない⁈
こんなに細くなって…何も食べれてないんだろ!
彩香なんでこんな大変な事を、一人で抱え込んでたんだ‼
俺が頼りなかったから…もっとお前の事をちゃんと見ていれば…
彩香
ーーーー違うの!
私が和哉さんと一緒にいたかったからなの!
…立つ事も儘成らない時間が増えて、あなたの事を大切に出来なくなったのは…私なの!
食事さえまともに作れなくなっても、あなたの身の回りの事さえちゃんと出来なくなっても…
あなたの傍に縋っていたかったのは私で、あなたが悪いんじゃない!
…和哉さん、もう限界だろうなって。
私の事、呆れてるだろうなって…
だから今日あなたがここへ来た時、別れを切り出される日が来たんだなって覚悟したのに…。
あなたは本当に、優しい人…。
和哉
嗚呼…神様…俺は取り返しのつかない事を…
俺は一体…彩香の何を知ったつもりになっていたんだろうか…!
優しさに縋っていたのは俺で…‼
彩香がこんな事になっている事すら、気付きもしない俺を…!
どうして…
どうしてお前はそんなに優しい顔をして…全てを受け入れるんだ⁈
彩香
あなたの側で人生を終われるなら、私は幸せだと思った…。
でも和哉さんには…たくさんの迷惑を掛けてしまう事になる…
分かってるのに、それでも…貴方のそばに…いたかったの…!
和哉
…責めろよ…俺を罵ってくれよ彩香!
こんなになるまで気付かない、ろくでなしだぞ‼
お前を大切にしていると奢り、重大な事実を見落とすような最低な夫だ!
俺を…許すなよ彩香…頼むから…どうか…俺を置いて独りに…しないでくれ…
彩香
和哉さんはいつだって輝いて見えたわ?
仕事熱心で真っ直ぐな人。
あなたは勘違いしてる。
いつだって、今だって。
あなたは誰よりも私を愛して大切にしてくれている。
ちゃんとわかるの…。
忙しくても、ちゃんと私を労わってくれてた事も。
家事だって自分が出来る時は手伝ってくれて…
いつだって私に笑顔を見せてくれてた…
一つ一つがあなたの優しさで溢れている。
そんなあなたの事を責める理由なんて…あるわけがないでしょう?
責められるなら、それは私。
事実を知られるのが怖くて…癌に蝕まれている事を隠して…
もう助からないと分かった時も…私は…あなたから…離れたくなくて…
ぁぁ…ごめんなさい、和哉さん…泣かないで…
苦しめているのは、私なの…ごめんなさい…
和哉
お前はいつだって気の利く嫁で俺の自慢だったのに…
でも不器用な俺に、愛想を尽かすんじゃないかと、怯えていたんだ…。
でもこの仕事が成功すれば、お前に胸を張って誇れるって…。
あぁ…そんなくだらない見栄より…もっと…もっと彩香と向き合えば…
何かが変わっていたかもしれないのに‼
彩香…俺は…愚かな夫だ…それでも…お前だけを愛しているのは真実なんだ…
彩香
和哉さん…その言葉だけで私は誰よりも幸せな奥さんだわ?
夫婦は似てくるって聞くけど、私達とても不器用なところまで似ちゃったのかしら?
あなたにお願いがあります…。
この命が尽きる日まで…あなたの側にいる事を…
赦してもらえますか?
和哉
そんなの当たり前だ!
絶対に離れてなんかやらない!
それに俺はまだ諦めない!
今から二人で出来る事を、一緒にやっていこう!
彩香、俺と一緒に癌に立ち向かおう‼
彩香
ああ…和哉さん…本当にありがとう…
【シーン7】
和哉
(M)
仕事先に電話を掛け、事情を説明し退職を願い出た。
だが上司から上に掛け合うからといって貰えて、その後長期休暇扱いとなった。
癌に強い専門病院や食事療法、ありとあらゆる方面から情報などを寄せてくれた。
多岐に渡り奔走してくれる人達の温かさが心に沁みた。
二人で歩んできた日々、二人が関わる人達を心から彼女が大事にしてくれていた事を。
馬鹿な俺はこんな事態になって、初めて気付いた…。
彩香の優しさ、配慮、そういった積み上げてきたものが。
彼女を助けようとする力に変わるのだと。
ベッドの上で、健気に微笑む彼女と向き合いながら…俺は…俺は。
ただただ…自分の不甲斐なさ、愚かさを…後悔する日々だった。
和哉
神様なんて信じてこなかった…。
身勝手な奴だと言われても仕方がない事も…分かってる‼
それでもどうか、神様‼
俺から…彩香を奪わないでください…‼
俺が持ってる未来の全てと引き換えでも構わないから…
彩香の命を…取上げないでください…お願いします…かみさま…‼
彩香
(M)
和哉さんは仕事を休職して、ずっと私の傍にいてくれている。
申し訳なさが在りつつも、二人で過ごす時間はとても幸せで、素直に嬉しい。
それでもここまで、身を肥やして頑張ってきた仕事が完成する瞬間の喜びを。
私が和哉さんから奪ってしまった事が辛い…。
でもあなたはお前と一緒に過ごしてる時間が、本当に楽しいって笑ってくれる。
あなたの方が優しすぎるのよ、和哉さん?
和哉さんの会社の上司から、権威ある大学病院で診察を受けれることになり。
セカンドオピニオンにて再診を行ったが、検査結果は覆ることはなかった。
それでも和哉さんは諦めずに、私との未来を紡ごうと惜しみない努力を見せてくれている。
口内炎で食事が辛くなったら、私のために流動食を作ってくれて。
「ほら、口開けて?」と
微笑みながら食べさせてくれるあなた。
口を開けて待つ私は、まるで燕の子供にでもなったみたいで…
ーーー私も思わずつられて笑う。
そんなあなたに…願わずにはいられない。
 
彩香
ーーー神様!
和哉さんに出逢わせてくれた事を心から感謝致します。
私はもう十分過ぎる程幸せだから…!
もし私に残っているものがあるならば、それを全て和哉さんにあげてください。
どうぞ和哉さんがこの先も、たくさんの人に愛されて、幸せである事を願い続けます…。
【シーン8】
和哉
(M)
起き上がる事も出来なくなり、排泄も不可能となった彩香は、緩和ケア病棟へと移される事となった。
抱き上げる彩香から、重みさえも感じられなくなっていく。
口から栄養すら摂取できなくなった為、管を直接胃と繋ぎ。
食事という名ばかりの栄養が流し込まれる。
たくさんの管に繋がれたまま、彩香はいつも俺を見つめ微笑む。
声が出せなくなっても…
身体を動かすことが出来なくなっても…
彩香は唇で俺の名前をなぞる…。
愛おしそうに俺の名を呼ぶ彩香が。
堪らなく愛しくて…堪らなく切なかった…
痛みが全身を襲い、我慢が限界を超えていく中。
モルヒネ投与を拒み、少しでも俺の事が分かるようにと、耐え続ける彩香。
医師からはもう本当なら、とっくに痛みで絶命してもおかしくない程なんだと言われた。
 
彩香
か… …ず  や…さ ん…
和哉
どうした彩香?
身体さすってやろうな…唇にもリップを塗ってやる
彩香
…しあ わせ  だっ… あり  がと 
和哉
言葉がうまく聞き取れないな…くそっ、もっと分かってやりたいのに…!
彩香
あ   なた  を ずっ   とあい…   て る…
和哉
ーーー彩香?
息が穏やかになった、寝たのか?
…苦しいよな…彩香、痛みに耐えながらの日々は・・・。
もっと早く、たくさん、お前との時間を大切にすればよかった…‼
後悔ばかりが押し寄せる俺に、お前は今が一番幸せだと微笑んで。
こんな時まで励まそうとしてくれる…。
彩香・・・。
お前と過ごす時間が…
俺にとっても宝物なんだよ…
神様にだって渡したくないんだからな!
 
和哉
(M)
そんな独り言が彩香の耳に届いたのか…
彼女はとても優しい笑顔を浮かべて見せた。
その表情はあまりにも美しく可愛いらしくて。
俺は荒れ乾いた彩香の唇を濡らすように…口づけをする。
そのキスに反応するように彩香は微笑み、閉じた瞳から一縷の涙が彼女の頬を伝った。
その涙をみて、俺は声を殺して泣いた…。
そして彩香は。
この日を最後に意識を取り戻すことはないまま。
苦しかったであろう、長きに渡る闘病生活から、解放された。
【シーン9】
和哉
彩香…どこにいる…?
返事してくれよ…
どうして…こんな黒縁の枠の中で…笑ってるんだよ、彩香。
お前の居場所は俺の隣だろう?
なあ彩香…彩香…彩香‼
お前は本当に俺なんかと結婚して、幸せだったのか?
違う誰かと一緒になってたら!
死なずに済んだんじゃないのか⁈
 
和哉
(M)
彩香がいなくなった家は…こんなにも広かったのかと愕然とした。
冷たく乾いたこの部屋で、いっそこのまま死んでしまおうか…。
ーーーそんな事を思い始めていた時、彩香の携帯が俺の目に留まった。
 
和哉
彩香の…携帯…なんでこんなところに…?
 
和哉
(M)
何気なく自分の誕生日を押すと、ロックは難なく解除された。
アルバムと日記の項目だけがその中には残されていて。
アルバムの中には、二人の思い出がたくさん残されており。
一つ一つ丁寧に、添え書きが全てに付けられてている。
 
和哉
バカだな…彩香、俺ばかり撮って…
『可愛い・最高!』
なんだよこの添え書きは…可愛いのはお前の方だろ?
一枚一枚全てにメッセージが添えられている。
自分がいなくなった後に、俺が見るのを見越して…
これは日記になってるのか…。
 
和哉
(M)
そこには彩香が綴った日記の冒頭に
「和哉さんへ」と記されたメモ書きが付いていて。
それをタップすると、彩香からの手書きの手紙が写し出された。
【彩香からの手紙】
彩香
(M)
「和哉さんへ」
和哉さんがこれを読んでるという事は、私はこの世から旅立った後でしょう(笑)!
だからこそあなたにこの手紙を残します!
ねえ和哉さん…。
今、もう死んでも良いかな…なんて思ったりしてるでしょ⁉
和哉
…なんでお見通しなんだよ…
彩香
(M)
ダメだよ、そんな事思っちゃ‼
あなたと会えた私は本当に幸せだった♪
毎日あなたの為に作る料理、それを美味しそうに食べてくれる和哉さん。
疲れてても目を細め、ちゃんと私の話を聞いてくれる和哉さん。
私しか知らないあなたの表情、仕草・・・。
宝物としてこのアルバムへ残してあります。
和哉
…彩香…俺は…お前に聞きたいんだ…
彩香
(M)
和哉さんと一緒に過ごせた日々を、一度だって後悔なんてしたことはありません!
ちゃんとあなたが知りたいと思っていた答えになっているかな?
わたしは世界で誰より幸せだったよ!
だからお願い・・・自分を責めないで?
私の言葉を信じて欲しいです‼
和哉
お前はいつでも俺の事ばかり気遣って…
彩香
(M)
私の願いは一つだけなの、和哉さん。
だからちゃんと叶えて欲しい。
あなたの長い人生の先に、私を超えて愛せる人。
あなたを愛してくれる人と巡り合って欲しいの!
和哉
バカ…そんな事…無理に・・・決まってるだろ…?
彩香
(M)
和哉さんが命を全うする時は、私が迎えに来て、また独占してあげる。
だからね、それまでは。
あなたの幸せを一番に考えてください。
追いかけてくるなんて絶対に許さないんだから!
ーーー和哉さん、わかった?
これから先、たくさんの人を愛し愛され、貴方らしく生きて。
私は誰よりも貴方の幸せを願っている。
和哉
…彩香…
彩香
(M)
私の幸せな日々の思い出を、後悔なんかにしないで!
私を愛し抜いてくれたあなたは、私の光なの。
生きて、和哉さん。
その先にあるあなたの未来の幸せを、私にも応援させてください。
不器用な二人だったから、こんなにも愛を確かめ合えた。
あなたに会えてよかった。
あなたを愛せてよかった。
そしてあなたに愛されて、幸せでした。
いつかまた、逢える日まで。
ーーーー幸せになってね?   彩香より。
 
和哉
(M)
…涙が止まらない。
人は幾度も…後悔の中、藻掻きながら生きていくのだろうか?
彩香が記してくれた言葉達が、彼女そのもので俺をやっぱり励ましてくれる。
後悔で潰れてしまわない様に。
彼女の愛が敷き詰められた命を繋ぐラブレター。
最後の最後まで未来を紡ぎ残そうとしてくれてる彼女を。 
和哉
俺を何度惚させるつもりだよ、彩香…
俺の嫁はお前だけでいいよ、彩香。
お前以上に惚れる人に、出会う事はないと思うから。
だからな?
この先もずっとお前を愛し抜くことを。
ーーーーどうか許して欲しい。
【エンディング】
和哉
(M)
長きに渡って休んだ会社に復帰した時。
周りは温かく迎えてくれて。
そして主任を預かっていたこの仕事は。
俺が主任まま、完成を迎えるところまで進んでいた。
この仕事はお前の頑張りが実ったものだからなと。
ーーーそう言われた時。
彩香の声が聞こえた気がした。
彩香
(M)
和哉さん、あなたが頑張ってきた姿をみんなが見ていたのよ?
和哉
(M)
君が俺に遺してくれた想い。
この先も繋げていくさ。
そして生きて生きて生き抜いて。
俺の人生が胸を張って終われる時。
必ずお前にまた会えると信じてる。
ーーー彩香。
俺にはたくさんの後悔がある。
それをなかった事には出来やしない。
ーーーだからこそ。
その後悔よりも、
この愛をこれからも示して生き抜くよ。
誰よりも愛しい彩香へ。
後悔より…愛を、君に捧ぐ。
【終わり】

メンバーメッセージ

NKO-IDで本人認証されたメンバーだけが、登録ニックネームで書き込めます。

みんなのメッセージ

  1. ERIKA🐾 認証メンバー

    ずっと途中から涙が出て止まらない😭切ない
    和哉がお仕事を休職して、彩香に寄り添って、1日1日病魔に蝕まれていてもお互いに思いあって、笑ってる姿が頭の中にシーンが浮かんできて号泣😭
    残された和哉が、前に進めるように彩香が携帯に残したメッセージが…胸に刺さった。